圧電効果(ピエゾ効果)の基礎知識|圧電素子の動作原理や特徴とは
2024.08.07更新
機電系エンジニア必見!!貴重なフリーランス案件はこちら ▶圧電体(ピエゾ素子)は、電源がなくとも電圧を発生させられる装置として、圧力センサーを始めさまざまな用途で活躍しています。この特徴は、水晶を始めとした、一部の素材が持つ「圧電効果」という特性によって成り立っています。今回は、圧電効果の特徴や動作原理、用途などについて解説します。
圧電効果(ピエゾ効果)とは
圧電効果とは、物体に力や圧力を加えると電流が生じる現象のことです。また、圧電効果を発生する物体のことを圧電体というほか、古代ギリシャ語を由来とし、押すという意味の「ピエゾ」素子と呼ぶこともあります。圧電体は陽イオンと陰イオンの単結晶によって成り立っています。単結晶は規則正しく原子が整列しているので、全体で見た時にプラス・マイナスイオンは相殺され、極性を持ちません。
そのため、通常では電流が流れないのですが、圧力を加えると原子の配列が歪むため、結晶内のイオンのバランスが崩れます。プラスのイオンが偏る方向はプラス、陰イオンが偏る方向はマイナスの電位をもつため、結晶全体が電圧を持つようになるのです。結晶内の分極が要因なので、放出するエネルギーこそ小さいですが、圧力を電気に直接変換できることから、用途の幅が広く重宝されています。
電気で圧力を生み出す「逆圧電効果」も
圧電体は圧電効果を持つ物質のことですが、電圧をかけると変形・振動する「逆圧電効果」も持っていることが分かっています。特に、圧電体に電流を流すと一定の周波数で振動する「振動子・発振器」としての働きがもっとも有名です。
「クオーツ時計」として時間を正確に測るために使われるほか、電子回路のクロック信号を作るのにも用いられ、エレクトロニクス業界には欠かせない存在となっています。他にもインクジェットプリンタやカメラのオートフォーカスなど、用途は多岐に渡り、圧電体の有用性をさらに高めています。
圧電効果を用いるメリット
圧電効果はユニークな効果をもたらすため、利用した機器は数多く、産業の発展に貢献しています。中でも最も大きなメリットは「電源が不要」であることです。「安価で使いやすい」点も圧電体のメリットとしては見逃せません。圧電素子は圧電体を電極で挟みこんだ単純な構造で作れるため、簡単に製造できコストも安くなります。小型化も進んでいるため、設置場所も選ばないのも魅力です。
また、圧電体は縦方向・横方向・せん断方向で結晶構造が異なることを利用し、圧力がかかる角度も検知できるため、幅広い用途で使えます。
圧電効果をもたらす材質
天然の結晶から人工物まで、圧電効果を持つ物質は数多くあることが分かっています。ただ、実際に圧電体として使われているのは以下の3種類がほとんどです。それぞれの特徴や違いを紹介します。
水晶
水晶は、天然結晶の中で高い圧電効果を持ち、加工性も良いため、古くから圧電体として使われている単結晶です。かつては採掘した水晶を利用していましたが、1960年頃に人工水晶の生成に成功し、現在はほとんどのデバイスに人工水晶を使っています。
水晶は結晶が緻密で欠陥が少なく、また熱や衝撃などにも強く安定性が非常に高いことから、高い精度が求められる用途で幅広く使われています。また、静電容量が少なく生じる電荷は少ないですが、その分高電圧を出力できるのも特徴です。
圧電セラミックス
圧電セラミックスは、チタン酸バリウム(BaTiO3)や、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの強磁性体を粉体にし、焼き固めることで作れる圧電体です。強磁性体は、自然状態でも結晶中の電荷のつり合いが取れておらず、分極している物質のことです。強磁性体は通常、圧電体として働くことはありません。しかし、セラミックスとして焼成した直後に高い電圧をかけると、内部の分極の向きが揃うことで圧電体としての機能を持つようになります。
圧電セラミックスは水晶より静電容量が大きいことから、振動や電流など、強い出力が求められる機器に使われます。また、任意の方向に圧電効果を作れるため、サイズや形状などの自由度が高く、製造コストが安価なこともメリットです。一方、水晶と比べると温度安定性が低いため、高精度な振動子への利用は向いていません。また、セラミックスは硬くて脆いため、衝撃がかかる環境下では使いにくいです。
圧電薄膜
最近ではIoTの発展などにより、圧電素子の小型化が求められており、その対応策として開発を進められているのが圧電薄膜です。スパッタリングにより、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などを厚さ数μm程度となるよう蒸着させ、さらにMEMS技術を用いて微細な電子回路を作ることで、薄膜化を行っています。
現在はさまざまな企業が開発を進めている段階であり、技術が確立している訳ではありません。しかし実用化に向けて着実に進んでいるため、近い将来超小型の圧電体が当たり前に使われる日がくるかもしれません。
圧電効果の用途
圧電効果は身近で非常に良く使われています。代表的な例を紹介しましょう。
ライター等の火種
最も身近で使われているのは、ライターやコンロなどの発火装置です。スイッチやツマミに圧電素子を接続し、人が押したり回したりすることで圧力をかけ、電圧を発生させます。生じた電圧は、ガスが流れるノズルの近辺で放電を起こすのに使われ、ガスを発火・燃焼させます。
各種センサー
圧電素子は、物体にかかる力や物体自身の動きによってかかる圧力を検知できるため、圧力、振動、加速度などのセンサーとして活用されています。反応速度が速く、広い測定可能範囲を持ち、耐環境性能や耐久性にも優れるなど、さまざまなメリットがあるため幅広い用途で使われます。
ただし、動的な圧力の変化を測る方式なので、静的センサーとしての利用には向いていません。また、圧力センサーでも加速度の変化を検知してしまうといった問題もあります。そのため、補正用素子を追加して加速度の影響を取り除くなどといった対策が行われています。
アクチュエーター
圧電素子は、微細な位置制御を行うアクチュエーターとしても有用です。圧電素子は逆圧電効果により、電圧を印加することで伸び縮みします。伸び縮みは電圧の変化に対して連続的、かつ微細に行われるため、分解能を非常に高くできるのが特徴です。
また、歯車のような摺動部品もなく、物性の変化によって変位が生じるため、誤差が生じることもなく半永久的に使い続けられます。顕微鏡などでステージをナノメートル単位で動かしたい時などに使われます。
発電床
一風変わった応用例が、人が歩いた時の振動を電力として利用する「発電床」です。多数の人が行き交う床に圧電素子を敷設して発電するという取り組みで、生み出せる電力は小さいものの、簡単にクリーンなエネルギーが得られます。
発電床は2008年にJR東日本が実証実験を行って以来、実際の適用例はありません。しかし、発電床システムの開発は続けられているため、実用に耐える条件が整い次第、新しいエネルギー源としての導入が始まる可能性は高いです。
まとめ
今回は、物理的特性のひとつである「圧電効果」について解説しました。圧電効果は、物体に圧力が加わると電圧が生じる効果のことです。電源がなくとも電力を生み出せること、圧電体に加わる力や圧力を検知できることから、センサーやライターの火種を始め、幅広い用途で使われています。
圧電体としては水晶が最も有名ですが、セラミックを用いた圧電薄膜など、より小型で汎用性の高い製品も開発が進んでいます。IoTなど先端技術にも欠かせない存在の一つとして、さらなる発展が期待できる技術の一つです。
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