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フッ化物イオン電池はホンダが開発?原理・歴史・特徴を解説!

2023.10.18更新

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この記事を書いた人

機電系専門ライター Div.長谷川

長谷川

FREE AID編集部 機電系専門ライター Div.
アナログ回路設計・営業を経験した後ライター&ディレクターとして独立。
電気電子・ITジャンルを得意とし、正確で分かりやすい情報の発信を行っています。

近年、蓄電池業界を牽引する新たなバッテリーとして期待されるフッ化物イオン電池をご存知でしょうか。従来のリチウムイオン電池に比べて優れた部分が多く、電気自動車用の車載バッテリーなどの用途での利用に期待が持たれ、各企業や研究機関が日夜研究している蓄電池です。

今回はそんなフッ化物イオン電池について、具体的な原理や実用化の目処、従来のリチウムイオン電池に勝るポイントなどを解説していきます。最新のトレンド技術に関する知識が身につきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

フッ化物イオン電池はどんな電池?

まずはフッ化物イオン電池とはどのような電池なのか、開発の背景や歴史も交えて解説していきます。

フッ化物イオン電池の開発が急がれる背景

リチウムイオン電池などに次ぐ蓄電池としてフッ化物イオン電池の開発が急がれる背景には、蓄電池業界の急速な発展やカーボンニュートラル社会実現に向けた期待、そして国内で掲げられている脱ガソリン車目標などの要因が考えられます。

経済産業省が2022年に発表した蓄電池産業戦略によれば、世界の車載用バッテリーの市場規模は2019年に約4兆円であったのに対し、2030年には約33兆円、2050年には約53兆円にまで拡大すると予想されています。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、蓄電池技術の発展こそがカギとなるとも言われており、世界全体としてより良い蓄電池の開発が求められていることが伺えます。

国内に目を向けてみると、2020年12月に開催された都議会において、小池東京都知事が2030年までに都内で販売される車両を100%非ガソリン車にする目標を打ち立てました。また2021年の施政方針演説では当時の菅首相が、2035年までに国内の新車を100%非ガソリン車とする目標を掲げています。これらのことから、現在主流のリチウムイオン電池に代わる新たな蓄電池が、カーボンニュートラル実現のブレイクスルーとして国内外で求められていることが分かります。

フッ化物イオン電池開発の歴史

フッ化物イオン電池のアイデアは1970年頃に登場しており、以降も個体の電解質を利用した電池モデルに関する論文が度々発表されてきました。しかし、固体の電解質を利用する場合、液体の電解質に比べて電極と電解質の接触する面積が少なく、イオンの伝導度も低いという欠点があるため実用化には至りませんでした。また、電解質を高温にして溶融させて使用する場合も150度以上に熱する必要があるため、やはり実用的とは言えませんでした。

そんな中、2018年にホンダグループの研究機関、ホンダ・リサーチ・インスティチュートとNASAのジェット推進研究所、そしてカリフォルニア工科大学が共同で常温で使用可能なフッ化物イオン電池の作製手法を発明しました。この発明は、理論上は優れているものの実用化には向かないと考えられていたフッ化物イオン電池を実用化するための大きな一歩となりました。まだ実用化に向けた研究が進められている段階ではあるものの、今後大きく発展する分野であることは間違いないでしょう。

フッ化物イオン電池の原理

フッ化物イオン電池では、その名の通りフッ化物イオン(別名、フルオライドイオン)が電極間を移動する時の電気を利用した電池です。フッ化物イオンはF-の化学式で表される一価の陰イオンで、広い電位窓を有していて化学的に安定している、という特徴から蓄電池の電荷移動体としても優れています。

フッ化物イオン電池では正極と負極それぞれにフッ化物イオンと結合可能な金属元素が使用され、充電過程では負極から正極へ、放電過程では正極から負極へそれぞれフッ化物イオンが移動することで充放電します。

フッ化物イオン電池の代表的なメリット

フッ化物イオン電池は従来のリチウムイオン電池と比べて2つの優れた特徴があります。なぜ蓄電池業界を牽引すると言われているのか、しっかりと理解しておきましょう。

体積エネルギー密度が高い

フッ化物イオン電池が優れる1つ目の特徴は、体積あたりのエネルギー密度の高さです。従来のリチウムイオン電池はインサーション型電池と呼ばれ、電荷を運ぶリチウムイオンをホスト材料に収納しておき、充放電によって電極間を移動することで電池としての役割を果たします。インサーション型電池は充放電の繰り返し特性が優れている一方で、ホスト材料が必要な関係で、重量や体積が大きくなりがちです。

一方、フッ化物イオン電池はリザーバ型と呼ばれる電池で、電極から発生するフッ化物イオンをそのまま電荷として使用するため、イオンを収納しておくホスト材料が不要となり、実質的な体積あたりのエネルギー密度がリチウムイオン電池に比べて高くなります。実際、実用化レベルでのエネルギー密度は条件によって左右されるものの、原理的にはリチウムイオン電池の7〜10倍程度のエネルギー密度とも言われております。

環境に優しい

フッ化物イオン電池はリチウムイオン電池と比較して、環境にも優しい電池と言われています。リチウムイオン電池に使用するリチウムの採集方法は、塩湖などの水資源から得る方法と鉱石から得る方法の2種類に大別されます。

このうち水資源からリチウムを取り出す方法では、チリやボリビアといった南米国にある塩湖の水を地下から大量に汲み上げ、広大な土地に設けた蒸発プールにて蒸発、濃縮して製造します。生活に欠かせない水資源を大量に消費するため、近隣住民の生活を脅かすのはもちろんのこと各工程によって周辺の環境汚染や生態系への悪影響が懸念されます。

これに対し、フッ化物イオン電池に必要なフッ素(フッ化物)は、中国やメキシコなどで採れる蛍石から製造されます。蛍石の構成物の多くがフッ化物ということもあって採集量に対する環境負荷は相対的に低く、フッ化物イオン電池の体積エネルギー密度の高さも相まって、単位出力エネルギーあたりの採集負荷はリチウムイオン電池よりも低く抑えられます。

フッ化物イオン電池の課題は充放電特性の劣化

リチウムイオン電池に代わる新たな電池として期待されるフッ化物イオン電池ですが、リチウムイオン電池と比べると充放電回数に対する耐久性が低いのが課題です。既に説明した通り、リチウムイオン電池はホスト材料にリチウムイオンを収納しておき、充放電のたびに電極間を移動して電気を運びます。

これに対し、電極の化学反応を使わないフッ化物イオン電池は、電極そのものが溶融してイオン化したものが電荷の運び手になるため、繰り返しの充放電によって電極自体が劣化してしまいます。具体的な数値で比較すると、リチウムイオン電池は0%から100%までの充電サイクルを数百回は繰り返せるのに対し、フッ化物イオン電池は2〜30回程度で性能が低下すると言われています。今後リチウムイオン電池に代わる蓄電池として広く浸透するためにも、電極寿命改善が急務となるでしょう。

まとめ

今回はリチウムイオン電池に代わる蓄電池として注目を集めるフッ化物イオン電池について解説してきました。常温で使える電池の製造方法が2018年に発見されたばかりで、世界でも大注目されている技術の1つです。冒頭でも触れたように、今後の蓄電池技術の発展はカーボンニュートラル社会の実現において重要な役割を担うと考えられるため、フッ化物イオン電池の発展にこれからも注目してみては如何でしょうか。

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