電気機器に発生する渦電流損失とは?発生原理や対策も解説!
2024.08.23更新
機電系エンジニア必見!!貴重なフリーランス案件はこちら ▶電気機器に発生する損失の1つ「渦電流損失」のことを知っているでしょうか。モーターや変圧器などの鉄心を使用する機器の設計では対策を欠かすことのできない損失です。そこで今回は渦電流損失について、発生するメカニズムや対策、応用事例などを中心に網羅的に解説していきます。初心者にとっても分かりやすい内容ですので、ぜひ最後まで読んでみてください。
渦電流損失とは?
渦電流損失とは、その名の通り渦電流が流れる際に生じる損失のことです。静止した金属に向きや大きさが変化する磁界を与えたり、向きと大きさが一定の磁界中で金属を動かすと、金属にはファラデーの電磁誘導の法則に基づき磁界を打ち消す方向へ電流が流れます。この時流れる電流は貫く磁界を中心に渦状に流れるため渦電流と呼ばれ、その渦電流が金属中を流れた際に生じるジュール損失が渦電流損失です。
渦電流はフーコー電流とも呼ばれる
渦電流は原理を発見したレオン・フーコーの名を取ってフーコー電流と呼ばれることもあります。レオン・フーコーは地球が自転していることを証明するフーコー振り子を発明したフランスの物理学者で、1855年に誘導電動機の回転原理を説明するのに使われるアラゴの円板の回転原理が、円板を垂直に貫く磁界の周りに流れる渦電流によるものであることを発見しました。
渦電流損失が生じるのは鉄心のある機器
理論上、電流や磁界が存在する全ての機器において渦電流損失が存在すると言っても過言ではありませんが、ほとんどの場合、流れる渦電流がごく僅かなため渦電流による損失はあまり問題になりません。しかし、変圧器や電動機、発電機のように鉄心を用いて電磁誘導を最大限利用している機器では、渦電流による損失が無視できません。
変圧器
変圧器とはその名の通り電圧を変化させるのに使う機器で、コイルに電流を流すと右手の法則に基づいて磁界が生まれることを利用しています。向かい合わせに置いた2つのコイルの一次側に電流を流し、生まれた磁界が二次側のコイルの中空を貫くと、二次側のコイルに電力が伝わります。この時、磁界の通りやすさは内部の透磁率によって左右されるため透磁率の高い鉄心を置くのが普通ですが、鉄心を磁界が流れる際に渦電流損失が生じてしまうのです。
電動機と発電機
渦電流損失は電動機や発電機でも発生します。電動機は、磁界中に置かれた導線に垂直な電流を流すと磁界と電流の両方と直交する方向に力が働くフレミングの左手の法則を利用し、電気エネルギーを運動エネルギーに変換しています。一方の発電機は、磁界中で導線を動かすと磁界を打ち消す方向に誘導起電力が生じるフレミングの右手の法則を利用し、運動エネルギーを電気エネルギーへ変換しています。どちらも磁界があらぬ方向へ拡散しないよう鉄心を使用するため、その内部に渦電流損失が発生するのです。
渦電流損失を防ぐ方法は鉄心の積層化
渦電流損失は次の式で表されるため、その損失を低減するには積層鉄心を使用するのが有効です。
Pe=K(fBt)2/ρ
(Pe:渦電流損失、K:比例定数、f:周波数、B:最大磁束密度、t:厚み、ρ:抵抗率)
式から分かるように、渦電流損失は磁束が変化する周波数、最大磁束密度、鉄心の厚みの積の2乗に比例し、鉄心の抵抗率に反比例します。周波数は鉄心を利用する変圧器や電動機の一次電源、あるいは発電機の発電周波数に関係するため、容易に変化させることは難しく、最大磁束密度も磁気回路を利用する関係上、簡単には変えられません。
また抵抗率に関しても、鉄の圧倒的な透磁率の高さを犠牲にしてまで抵抗率を下げるメリットが薄いため、下げる意味がありません。そこで、唯一容易に変えられる鉄心の厚みに注目し、薄い鉄心を絶縁材と共に重ねた積層鉄心を利用するのが対策として有効なのです。
渦電流損失を利用した機器もある?
これまでの説明から、鉄心を使用する電気機器において渦電流は害悪であると感じた方も多いはずですが、実は渦電流をうまく利用した機器も存在します。具体的な例を2つほど紹介していきましょう。
IHヒーター
渦電流を用いて熱エネルギーを生み出す機器といえば、コンロの一つとして知られるIHヒーターが挙げられます。IHヒーターは誘導加熱と呼ばれる方法を採用しており、鍋を置くプレートの下に設置されたコイルが生み出す磁界が鍋底に渦電流を流し、鍋自体の抵抗値によって生じるジュール熱で加熱します。従来のガスによる加熱方式と違って人が火傷を負ったり家事を引き起こす危険性が少なく、掃除もしやすいことからオール電化家庭を中心に多く採用され始めています。
渦電流式ブレーキ
電車などの電磁ブレーキの一種である渦電流式ブレーキにも、その名の通り渦電流が利用されております。渦電流ブレーキの原理はアラゴの円板を思い浮かべると理解しやすく、回転する車輪に対し垂直に貫く磁界を与えると、車輪を貫く磁界の周りに渦電流が生じます。この渦電流は電磁誘導の法則に基づき車輪の回転方向と逆向きの力を生み出すため、磁界を電磁石のオンオフなどで制御すれば、任意のタイミングで作動するブレーキとして使えるのです。
渦電流式ブレーキは機械的な摩耗等が発生しないうえ、電流制御によってブレーキの効き目を簡単に制御できるものの、その制動力が車輪の速度に依存する関係で低速領域でのブレーキ性能が低いデメリットもあります。
渦電流損失以外の損失
変圧器や電動機などの電気機器では、渦電流損失以外にも銅損やヒステリシス損といった特徴的な損失が存在します。どれもそこまで難しい損失ではないので、この際にまとめて理解しておきましょう。
銅損
銅損はコイルなどの回路線に流れる電流が生み出す損失です。回路線に銅を用いることが多いためこの名称で呼ばれ、渦電流損失と同様に電気エネルギーが熱エネルギーの形で失われます。損失と名が付いてはいるものの、セラミックヒーターやドライヤーなど電熱線を利用したヒーターに欠かせない現象でもあります。
PC=I2r
(Pc:銅損、I:回路電流、r:導線の抵抗値)
式からわかるように電流の2乗と導線の抵抗値にそれぞれ比例するため、流す電流を小さくするか、回路の導線抵抗値を低くすれば銅損を抑えることができます。そのため、長距離に亘って送電する場合は変圧器によって昇圧し、同じ電力を少ない電流で送電するのが対策として一般的です。
また金属抵抗を下げるには、銅よりも抵抗率の低い白金や銀などの金属を採用する、導線の断面積を大きくする、導線の長さを短くする、の3つの方法があります。また最近では超伝導現象を利用したケーブルが注目を集めており、理論上は一切の損失なく送電できると言われています。
ヒステリシス損
渦電流損失と同様に鉄を利用する関係で生じる損失にはヒステリシス損も存在します。ヒステリシスとは履歴効果などとも呼ばれ、何らかの現象が過去事象の影響も受ける特性のことです。鉄を含めた磁性体に外部磁界を与えると、外部磁界が無くなっても自身が磁石として振る舞い、逆向きの磁界を与えることで磁石の性質が無くなります。
磁化と呼ばれるこの現象こそが磁性体が持つヒステリシス特性によるもので、磁界の向きが頻繁に入れ替わる場合には残留磁気を取り除くための余計なエネルギーをヒステリシス損と呼んでいます。なお、ヒステリシス損と渦電流損はいずれも変圧器や電動機などの鉄心部に起因する損失であるため、まとめて鉄損と呼ばれます。
まとめ
今回は変圧器や電動機、発電機といった電磁誘導を利用した電気機器で避けることのできない渦電流損について解説してきました。損失という名前ではあるものの、IHヒーターや渦電流式ブレーキなどの有効的な応用事例があることを初めて知った方も多いのではないでしょうか。電気機器の設計には欠かすことのできない知識の1つであるので、今回の内容をしっかりと理解しておきましょう。
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