ナトリウムイオン電池って何?開発状況や製品化に向けた課題を紹介

2025年8月8日更新
機電系エンジニア必見!!貴重なフリーランス案件はこちら ▶電気自動車を始め、あらゆる電子機器に欠かせない存在となったリチウムイオン電池。今なお世界中で増産が進んでいる電池ですが、リチウムやコバルトなど、材料となる資源の枯渇が将来的な問題点となっています。そこで、リチウムなどのレアメタルを使わない電池の研究が盛んにおこなわれており、中でも「ナトリウムイオン電池」が注目を集めています。本記事では、そんなナトリウムイオン電池の特徴やメリット、リチウムイオン電池を代替できる可能性などを詳しく解説します。
ナトリウムイオン電池とは
まずは、ナトリウムイオン電池についての概要を紹介します。
電解質にナトリウムイオンを使った電池
ナトリウムイオン電池とは、ナトリウムイオンを電子の移動に用いる二次電池のことです。次世代電池と呼ばれることもありますが、構造自体はオーソドックスな形であり、リチウムイオン電池とほぼ同じとなっています。正極にナトリウム酸化物、負極に炭素材料を使うことが多く、正極側のナトリウムイオンが負極に移動することで充電され、正極に戻ることで放電します。
電池性能は低いが将来性が期待される
実はナトリウムイオン電池自体の歴史は古く、リチウムイオン電池が開発される前から、高効率な電池の一つとして研究が行われていました。しかし、1993年にリチウムイオン電池が圧倒的な性能を実現し、ナトリウムイオン電池では同等の効率を出すことが難しいと判断されたため、ナトリウムイオン電池の開発は下火となり、今まで実用化されることはありませんでした。
その流れを変えたのが、電気自動車の開発の加速です。車載用電池の需要が爆発的に増加することから、リチウムイオン電池の資源不足が現実的になってきたため、圧倒的に資源量が多いナトリウムイオン電池に再度注目が集まるようになったのです。車載用ではありませんが実用化も始まりつつあり、次世代電池の中でも将来性を期待されている電池といえます。
ナトリウムイオン電池が注目される理由
続いて、数ある次世代電池の中で、なぜナトリウムイオン電池が注目されているのかを詳しくお伝えします。
希少資源を使わない
最も大きな理由は、希少な資源を使わずに電池を作製できることです。リチウムイオン電池に使うリチウムは、埋蔵量こそ少なくはないものの、資源の生産地が偏っており、調達は簡単ではありません。また、コバルトのように数十年で枯渇すると言われるレアメタルも使っており、情勢の変化によって材料が手に入らなくなる懸念があります。
対してナトリウムは世界中、地域を問わず潤沢に存在しています。また、電極などにレアメタルを使わない高効率電池の開発も進んでいるので、資源面の課題を根本的に解決できると期待されています。そのため、性能がリチウムイオン電池に及ばなくとも、持続可能な生産を実現する目的でナトリウムイオン電池が採用される可能性は十分あります。
使用温度範囲が広い
リチウムイオン電池と比べて使用温度範囲が広いことも、ナトリウムイオン電池が注目を集める要因です。電池は、低温になると電解液の粘度が増加して電池内部の反応速度が下がり、内部抵抗が増加して電池の出力電圧が下がるため、性能が悪化する性質を持ちます。
リチウムイオン電池の場合は、0℃を下回ると性能が大幅に低下するという報告が数多くあり、実際に電池の使用温度範囲が充電時0℃以上、放電時-20℃以上となっていることが多いです。一方、ナトリウムイオン電池では-20度以下でも性能が保持できると言われており、日本電気硝子が-60℃でも使える電池を開発するなど、さらなる低温にも耐えられる可能性が見えています。
また、高温動作についても90℃での充電が可能だと報告されており、過酷な条件で電池を使用したい場合に、ナトリウムイオン電池が活躍できると考えられています。
急速充電のスピードが速い
ナトリウムイオン電池が、リチウムイオン電池より高速充電に向いていることも、注目を集める一つの理由です。ナトリウムイオン電池は、ナトリウムとリチウムの原子特性の違いにより、リチウムイオン電池よりも安定して高速充電を行えるという特徴を持っています。
理論的にはリチウムイオン電池の5倍の速度で急速充電が行えるとの意見もあり、ナトリウムイオン電池の充電速度の向上に対して大きな期待が寄せられています。実際に、CATL社の実績では、室温において15分で80%の急速充電が行えることが報告されており、すでにリチウムイオン電池と同様の充電速度は実現しているため、今後の発展に注視が必要です。
リチウムイオン電池の生産設備が流用できる
ナトリウムはリチウムと性質が似ており、電池の構造も基本的にリチウムイオン電池と同じことから、生産設備を流用しやすいのもメリットです。電極は同様の材料が使えないなど、変更が必要な所はもちろんありますが、既存の設備が使える分、実用化までのハードルが下がるのは間違いありません。他の次世代電池では一から生産設備を作らなければならない場合も多いので、ナトリウムイオン電池の方が実用化に向けた期待度は高いといえます。
全固体電池への応用にも期待
全固体電池は安全性の高さや、高温・低温での使用、寿命の長さなど様々なメリットが得られることから、「電池の概念を変える次世代電池」として注目を集めています。この全固体電池にナトリウムを使う研究も行われており、実用レベルの性能を達成した報告もあります。
現在報告されているのは、酸化物系で電池容量の少ない電池ですが、これから研究が進むにつれて、大容量のナトリウム系全固体電池が開発される日が来るかもしれません。
ナトリウムイオン電池の課題
様々な面で期待の高まっているナトリウムイオン電池ですが、リチウムイオン電池を代替するには技術的な課題が残っているのも事実です。ここからは、ナトリウムイオン電池が持つ主な課題について解説します。
エネルギー密度が低い
ナトリウムイオン電池の最大のデメリットは、エネルギー密度が低いことです。ナトリウムはリチウムと比べると金属析出電圧が0.3V高く、また原子量が重くイオン半径も大きいという性質があるため、本質的にエネルギー密度は低くなります。もちろん、電池のエネルギー密度は電極の容量密度に依存するため、高性能な電極を開発すればエネルギー密度を向上させることは可能です。
ただ、イオン半径が大きいため、リチウムイオン電池で用いられる黒鉛電極では、ナトリウムが黒鉛の隙間に入り込めず、電気容量が大幅に減少する問題もあるため、リチウムイオン電池以上のエネルギー密度を得るのは難しいといえます。特にサイズの小ささ、重量の軽さが求められる電気自動車においては、ナトリウムイオン電池の搭載までに必要な技術ハードルは高いです。
安全性に課題
ナトリウムを利用する場合、電池としての安全性にも懸念があります。金属ナトリウムは、水に触れると激しく反応し、自然発火を起こすことや、引火性ガスを発生させ爆発につながる可能性が知られています。リチウムも発火性・爆発性を持つため、適切に対策すれば問題はないのですが、製品化するには相応の対策を行い、安全性を確保する必要があります。
製造コストが高い
ナトリウムイオン電池が技術革新によりリチウムイオン電池に匹敵する効率を実現した場合でも、製造コストの高さが課題として残ります。リチウムイオン電池は長年にわたり生産コスト削減が行われており、量産数も非常に多いため、コストが圧倒的に低いのが現状です。ナトリウムイオン電池は安価な材料が使えるメリットはありますが、早期の普及には量産数量の確保が必要になるでしょう。
ナトリウムイオン電池の開発状況
引用:日本電気硝子株式会社
ナトリウムイオン電池が持つ課題により、本格的な実用化にはまだ技術的なブレイクスルーが必要な状態ではありますが、研究は地道に行われており、製品化に至った事例もあります。
ここからは、ナトリウムイオン電池の開発・実用化状況をピックアップして紹介します。
東京理科大学が高性能な正極・負極材料を開発
こちらは、東京理科大学がナトリウムイオン電池の効率向上につながる、独自の電極材料を開発した事例です。まず正極では、機械学習によって最適な組成を予測し、実験することで549Wh/kgという高容量の電池が実現できるとの発表がされています。また負極では、材料となるハードカーボンの製法に工夫を凝らすことでナノサイズの空孔を発生させ、電極容量の大幅な向上を実現しています。
これらの研究結果より、負極の電位が0.3V高くなるという不利な点を考慮しても、ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池よりも高容量化できる可能性が見えてきています。あくまで研究レベルの発表であり、実用化に向けた動きは公表されていませんが、ナトリウムイオン電池の更なる可能性が感じられる例といえます。
日本電気硝子が全固体ナトリウム電池を開発
続いては、日本電気硝子がナトリウムイオンを使い、全固体電池を開発した事例です。正極と負極に結晶化ガラスを用いているのが特徴で、2017年に室温での駆動に成功し、2021年11月には実用レベルの性能を実現していると公表されました。
全ての材料を地球上で豊富に得られる資源だけに絞っているほか、高い安全性、半永久的な電池寿命の向上、低温での駆動など、多くのメリットを有しています。酸化物系の全固体電池であり、電気容量は小さいため小型電池にしか利用はできませんが、一つの技術革新として高い注目を集めています。
2024年にはサンプル提供を始めるなど量産に向けた動きも加速しており、特に真空・超高温環境などの過酷な環境での利用に向けた取り組みが進んでいます。
CATLがナトリウムイオン電池を実用化
中国企業のCATL(Contemporary Amperex Technology Co Ltd)が、ナトリウムイオン電池の実用化を行っている事例です。実用化を公表したのは2021年ですが、2025年には第二世代の電池を「Naxtra」ブランドとして開発、12月に量産開始との発表が行われるなど、開発が順調に進捗しています。
エネルギー密度は175Wh/kgと、リチウムイオン電池が200Wh/kg以上の性能を持つことと比較すると低い数値ではありますが、充放電速度の向上、-40℃までの低温駆動の実現、熱安定性の高さなどのメリットも持っています。
「ABバッテリーパック」という、ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池のセルを組み合わせ、それぞれの強みを活かすソリューションも発表しており、電気自動車への活用も見込んでいる状態です。
まとめ
今回は、次世代電池として注目が集まっているナトリウムイオン電池の開発状況や、将来の展望などをお伝えしました。ナトリウムイオン電池は希少資源を使わずに作れるため、将来的な資源不足に対応できる電池として期待されています。
エネルギー密度の低さや発火・爆発への懸念など、性能上の課題はありますが、量産化へのハードルが低いメリットもあり、実用化の可能性が比較的高い電池でもあります。電気自動車の爆発的な増産に合わせ、リチウムイオン電池を代替する存在として登場する日は近いかもしれません。
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