電源トランス(変圧器)とは?原理や用途を解説!
2023.10.11更新
機電系エンジニア必見!!貴重なフリーランス案件はこちら ▶電源トランスは電気回路の基本部品として様々な回路で登場するため、名前を聞いたことがある方は多いと思います。しかし、細かな構造や動作原理、用途に関して詳しく分かる方は少ないのではないでしょうか?そこで本記事では、電源トランスの主な役割と種類、動作原理などを分かりやすく説明します。
電源トランスとは
トランスは、鉄心と2つのコイルで作られる部品のことです。片方のコイルに流れる電気を、磁力に変換してもう一つのコイルに伝えることで、電圧の変換や絶縁などを実現します。構造がシンプルであり、低コストで信頼性の高い製品が作れることから、電圧変換を頻繁に行わなければならない電力業界を始め、さまざまな電子回路において多用されています。
電源トランスの原理
それでは、電源トランスの動作原理について詳しく解説しましょう。まず、2つのコイルは電源側と機器側にそれぞれ接続して使用しますが、電源側に接続される方を「1次コイル」、機器側に接続される方を「2次コイル」と呼びます。1次コイルに電流が流れると、アンペールの法則に従って鉄心に磁場が発生します。発生した磁場は1次コイルと同様、2次コイルを貫く形をしているため、2次コイルに電磁誘導が生じ、逆起電力が発生するのです。このように、磁場を介してコイル間で電流が伝わることを「相互誘導」と呼びます。
また、もう一つの重要な点は、1次コイルと2次コイルの巻き数比によって2次コイルの電圧が変化することです。1次コイルの巻き数をN1、電圧をV1、2次コイルの巻き数をN2、電圧をV2とすると、電圧と巻き数の関係は「V1/V2 = N1/N2」で表すことができます。つまり、1次コイルと2次コイルの巻き数を変えれば、自由に電圧を変換できるということです。
ちなみに、トランスでは巻線抵抗によって生じる「銅損」、鉄心により磁力が減衰する「鉄損」によって効率が低下します。特に高電圧を扱う場合は、鉄心や巻線の材質・構造を考慮して損失を減らす工夫が必要です。
電源トランスの役割
続いて、電源トランスが持つ役割について解説します。
電圧変換
トランスは、1次コイルと2次コイルの巻き数差によって電圧を変えられるため、変圧器として広く用いられています。代表的な使用例は送電線上における電圧変換です。家庭用電源は電圧が100V/200Vとなっていますが、送電ケーブル上では6,600Vもの高電圧を使用しています。これは、電圧が高いほど送電にかかるロスを減らせるためであり、トランスが家庭近くの電柱に取り付けられ、電圧を下げる役割を果たしているのです。
回路間の絶縁
トランスは電子回路を絶縁し、保護する際にも大きな役割を果たします。例えば家庭用電源の場合、電柱側とコンセントが直接接続されていると、電子機器の電源電圧が漏電した際に人が感電を起こす危険性があります。これは、人体を通して床に電流が流れ、電柱のアースを通して家庭用電源に戻るという経路ができてしまうためです。
一方、家庭用に引き込んだ電源と各機器の間にトランスを入れておけば、電源と機器を電気的に絶縁(分離)できるため、アースを通した漏電経路が無くなります。すると、万一機器が漏電しても、人を介して床に電流が流れなくなるため、感電の危険性を大きく軽減できるのです。このような用途で使用するトランスを「絶縁トランス」と呼び、人の感電以外にも、さまざまな漏電経路を抑えるために使われます。
ノイズカット
家庭用に引き込まれる電源は、他の家庭や電子機器とも接続されているため、他から侵入する電気的なノイズの侵入を全く無くすことは不可能です。そこで必要になるのが「ノイズカットトランス」です。ノイズカットトランスは、低周波のコモンモードノイズを1次コイルの周波数特性によって抑制し、ノーマルモードノイズは1次コイルと2次コイルの間に配置して接地した静電シールド板によって抑制します。
ただし、落雷や雷雲による誘導性ノイズに対しては、ノイズカットトランス単体では完全に抑えることが難しく、バリスタなどと組み合わせた「耐雷トランス」や「避雷器」などが使用されます。
電源トランスの選定ポイント
電源トランスを選ぶ際には、使用する電源および機器に合わせ、下記のポイントに注意する必要があります。
・相数(単相・三相)
・周波数(50/60Hz・その他)
・巻線方法(単巻・複巻)
・1次電圧
・2次電圧
・2次電流・容量(VA)
・絶縁種別(A・E・B・F・G・その他)
・使用環境(屋内・屋外・防塵・防水)
特に注意が必要なものについて少し詳しく解説します。
周波数
家庭用電源を使う場合、東日本・西日本の周波数の差がトランスの性能に影響を及ぼします。例えば60Hz用のトランスを50Hzで使用すると、トランスの磁束密度が1.2倍になるので、トランスの鉄心に発生する磁束限界を超えた場合、過電流が流れて故障・事故などにつながる可能性があります。
逆に、50Hz用のトランスは、60Hzで安全に使用できますが、インピーダンス電圧や電圧変動率が増えるためベストな選択肢とはいえません。そのため、それらの機器が東日本(50Hz)で使用されるのか、西日本(60Hz)で使われるのか把握した上で選定するようにしましょう。
2次電流・容量
トランスの定格容量は、定格電圧を与えた際に温度上昇が許容範囲内に収まる電力のことです。定格電圧が同じでも、単相電流と三相電流の場合で許容される容量は以下のように変わるので注意しましょう。
・単相:2次電圧(V)×2次負荷電流(A)=容量(VA)
・三相:√3×2次電圧(V)×2次負荷電流(A)=容量(VA)
また、機器や系統が複数になる場合は、それぞれの合計値を基準としてください。
絶縁種別
トランスは耐久性が非常に高いですが、電線の被覆や絶縁体など、一部の素材は樹脂を用いているため、高温条件下で使い続けると早く劣化する場合があります。そのため、安全に使用するための温度上昇上限が規格(JEC-2200)により以下のように設けられています。
・A種:+55K
・E種:+70K
・B種:+75K
・F種:+95K
・H種:+120K
電源トランスの説明書やデータシートに記載があるので、使用環境や負荷の上昇温度などに応じて選定するようにしましょう。なお、制御盤内では環境温度+5〜10℃程度の安全値を加味するようにしましょう。
電源トランスの保護回路における注意点
最後に、電源トランスを安全に使うための保護回路について解説しましょう。電源トランスは短絡などによる焼損を防ぐため、1次側および2次側にブレーカーなどの保護回路を設ける必要があります。保護回路を選定する際は、1次コイル側の電源ヒューズは流れる電流の1.5〜2倍、安全ブレーカーは流れる電流の1〜1.5倍程度のものを選定してください。
また、2次コイル側の保護には定格電流に等しいブレーカー又はヒューズを用いるようにしましょう。ちなみに、トランスの電源投入時には通常の20倍以上の突入電流が流れるため、時延遮断型のブレーカーを使うなど、突入電流に保護回路が反応しないような設計を行って下さい。
まとめ
今回は、電気トランスの仕組みや役割、選定ポイントなどについて解説しました。電気トランスは電圧変換や絶縁を行える貴重な装置で、シンプルな構造による信頼性の高さから、電力分野を始めさまざまな電子回路に用いられています。一方で、電源トランスは高電圧・大電流用途の電源回路に使われることが多く、選定を間違えると火災など大事故の原因となるなど危険性の高い機器でもあります。この記事に記載した内容を始め、細かい動作原理や選定ポイントを理解してベストな電源トランスの選定を行いましょう。
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