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産業ネットワークの進化を支えた通信プロトコルと5G通信への期待

2021.12.01更新

インターネット上でデータ収集をして、分析や処理を行う「スマートファクトリー」では、通信技術の整備が欠かせない。スマート化が進んでいるか・進んでいないかにかかわらず、工場の中では、有線と無線、両方の通信方式が混在している状況だ。

フィールドネットワーク(フィールドバス)の歴史

工場内における機器の通信の歴史は、工場内の機器を制御する装置「PLC(プログラマブルロジックコントローラー)」の通信基盤となるフィールドネットワーク(フィールドバス)から始まっている。フィールドバスは、特にインターネット普及期以前の1980年代のファクトリーオートメーション(FA)の進化を支えた通信基盤である。そこでは「RS-232」や、「RS-485」などのシリアル通信規格が使用されてきた。

 フィールドバスの黎明・普及期にはメーカーごとで通信プロトコルが作られてきたが、世の中の工場設備が大規模になるにつれ、異なるメーカー製品との互換のニーズが高まり、フィールドバスの規格は次第にオープン化されていった。

 業界最初のデファクトとなったシリアル通信プロトコルは、1979年に米国のModicon社が策定した「Modbus」である。Modicom社はかつてPLCの開発や製造を行っていた企業であるが、紆余曲折を経てその社名はもう残っておらず、現在は仏国のシュナイダーエレクトリックがModbusを取り扱うが、その仕様は一般公開されている。

 1989年には、ドイツ政府が助成し、ドイツ国内の研究機関や企業らの共同開発によりフィールドバス「PROFIBUS Process Field Bus)」が誕生した。まず、「Profibus FMS Field bus Message Specification)」が開発され、後にそれが「PROFIBUS DPDecentralized Peripherals)へと進化した。ドイツのFA企業・シーメンスの機器で使用されている。

 1994年には米国のAllen-Bradleyがフィールドバス「DeviceNet」を開発。Allen-Bradleyの技術自体は、現在、ロックウェル・オートメーションが扱っているが、DeviceNetODVAOpen DeviceNet Vendor Association)管轄でオープンネットワーク化されており、さまざまなメーカーの機器で採用されている。DeviceNetはもともとボッシュにより車載ネットワークとして開発され、FA分野でも使われるようになった「CANController Area Network)」の通信プロトコルとしても使われている。

 1996年に登場した「CC-Link」は、三菱電機によって開発された国産通信プロトコルである。開発当初は「セミオープン」という形だったところ、20006月から、同社がCC-Linkの仕様を公開しオープンネットワークになった。同年11月にはCC-Linkのグローバル普及を目指し、CC-Link協会(CLPA)を発足した。

産業ネットワークにもインターネット時代が到来――産業イーサネット

産業ネットワークの大きな転機となった、1990年代後半から2000年代にかけてのインターネットの普及加速である。産業ネットワークは、従来のシリアル通信のフィールドバスから、次世代フィールドバスともいえるインターネットのための有線通信規格「イーサネット」(EthernetLAN通信)にだんだん置き換えられていった。

 従来から活躍してきたフィールドバスも時代の変化に合わせて、イーサネット向けバージョンにも対応するなど進化した。「PROFINET」はフィールドバスのPROFIBUSのイーサネット版ともいえるプロトコルである。またフィールドバス Modbus のイーサネット版プロトコルが、「Modbus TCP」であり、フランスのシュネデールにより開発された。CC-Linkも、2018年からイーサネット向けプロトコル規格「CC-Link IE」の仕様公開を開始している。

 Ethernet/IPは、ODVA管轄のオープンネットワークである。こちらも、産業ネットワークにおけるフィールドバスの技術をイーサネット向けに進化させたものだ。2000年から、ControlNet InternationalCI)がODVAと開発していた通信プロトコルだが。2009年からODVAが単独管理している。

 EtherCAT2003年にドイツのベッコフオートメーションにより開発された産業イーサネットで、「EtherCAT Technology GroupETG)」の管理により、オープン化されている。他より歴史の浅いフィールドバスであるが、むしろ後発ポジションを生かして、イーサネット通信や電動化の最新ニーズを的確にくみ取って進化している。2015年に開発された「EtherCAT P」は、EtherCAT通信と電源供給を統合した規格である。これで、通信と電源で個別に必要だった配線が1本にできる。

 Powerlinkは、2001年にオーストラリアのBRが開発したイーサネット向け通信プロトコルである。現在はEthernet POWERLINK Standardization GroupEPSG)によって管理されていて、仕様も一般公開されている。

世界で市場シェア1位の産業ネットワークは?

HMS NetworksHMS)が20213月に発表した調査結果(※1)によれば、産業ネットワーク市場の2021年の予測値は、コロナ禍に見舞われたにも関わらず、前年比で6%の成長が見込まれているという。産業用 Ethernetについては、新規設置ノード数の65%を占め、フィールドバスは28%であった。この結果を踏まえると、世の中の工場の大半が、産業イーサネットに以降していることが見て取れる。

 このHMSの調査結果によれば、市場シェア1位は、PROFINET18%)、次いで2位は、Ethernet/IP17%)となっている。

 出典:HMS Networks:産業用ネットワーク市場シェア動向 2021HMS Networks 統計)

 HMSによれば、フィールドバスの市場の縮小傾向は前年比-1%の成長率で、「一息ついている」状態である。コロナ禍など不確かな事態に見舞われたことから、「既存設備の維持傾向が強くなる」ためであると解説している。

 その中で、ワイヤレス(無線)の市場シェアは7%と少ないが、成長率に着目すると前年比で24%の成長と急速に拡大している。

 産業ネットワークの無線化は、工場内の配線を減らすことによる省スペース化や快適な作業導線の確保、通信増設の際の工事費用の低減などメリットがあるが、有線と比較するとデータ容量や速度について劣りがちな無線化の手法を採用することに不安を覚える現場は少なくない。

そして5Gの時代へ

20203月から商用利用が開始された5G(第5世代移動通信システム)であるが、産業への適用も開始されつつある。産業向け5Gは、2022年から実導入が始まると見られている。そこで注目されているのが、企業や組織自身が敷地内に無線基地局を設置し、免許を取得する「ローカル5G」である。これなら、地方の企業も全国への5G基地局の普及を待たなくてもよく、かつ自社敷地内の通信によりセキュリティ確保面の安心感が高まる。日本政府は、既に2019年末から申請受付を開始している。

5Gであれば、これまで無線に躊躇していた現場も、データ容量や速度に関する課題が解消できる可能性があり、それが広がれば、現場の無線化がもっと進むことになるだろう。また、グローバル化の加速や、今のコロナ禍の中で求められている、リモート業務管理・連携へのニーズに応えるものともなり得る。

 参考

1 産業用ネットワーク市場シェア動向 2021HMS Networks 統計)

 https://www.anybus.com/ja/contact/about-us/news/2021/03/31/continued-growth-for-industrial-networks-despite-pandemic

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